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AVAN代表川奈まり子さんインタビューからみえてきたAV業界の現状と今後(後編)

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こんにちは、ふぇみブロガーのもにかです。

前回から引き続き、こちらの記事『AVAN代表 川奈まり子さんご回答全文』にて公開した真空パックAVなどについてのAVAN代表川奈まり子さんとのやり取りの中で見えてきたAV業界の現状と今後について前編と後編に分けてお送りします。

前編はこちら

www.feminism.jp

また、こちらも併せてご覧ください。

www.feminism.jp

 

そしてこの後編では前編の「AV業界の現状」を踏まえた上で、AV業界の課題と今後についてお伝えしていきます。

適正AVに参加しないと儲けられない状況をつくる

まず、一番重要な点はここです。
適正AVという概念をつくっただけでは、そこに加盟している団体のものについては健全化されていっても、結局それ以外のところで撮影プロセスがあまりにも危険なものや、倫理基準のゆるすぎるものが作られていってしまいます。

それを防ぐためには「適正AVに参加しないと儲けられない」状況をつくっていくことが大事なのではないでしょうか。

そのためには以下のようなことが今後重要な点になってきます。

・適正AV以外は違法性が疑われてしまうような流れにしていく

川奈さん:適正AV以外はすべて違法性が疑われてしまう、逮捕されたくない、商品を売りたい、だから適正AV業界に入って、AV業界改革推進委員会の規則に従おう!……という流れが確立することを願っています。

(ただし、危険な制作を行う業者が地下化することには、AVANとしては懸念を示しています。地下化を防ぐためにも過度の法規制には反対してます)

 つまり、適正AV=表、メインのAV業界、適正AV以外=裏のAV業界として明確に線引きをして、適正AV以外のものは違法性が疑われても仕方がないような状況にしていくのです。

 ・AVを取り扱う大手のレンタル店やweb配信サイトから適正AV以外を締め出す

川奈さん:IPPA未加盟メーカーのポルノは、ちゃんとしたショップからは締め出されればいいんですけど……。

すでに同人AVはDMMからは締め出されました。IPPA未加盟メーカーについても販売や配信を停止する方針だと耳にしたことがありますよ。 現在どうなっているか私は確認していませんが、その話を聞いたのは2月頃のことですから、多少進展しているのではないでしょうか。


この点については既に、IPPAから販売業者団体に向けて無審査ビデオの取り扱い停止要請をしており(取り扱い停止要請文はコチラ→ http://www.ippa.jp/pdf/ippa-musinsang20160713e.pdf)、今後の進展が期待できるのではないでしょうか。

「AVはフィクション、出演者はプロ、高頻度の性病検査」の徹底周知

出演者はプロでありAVはフィクションであること、そして性病検査などもかなり頻繁に行っていることを周知することもとても重要です。

真似を禁じる但し書きをつけようという動きは適正AV界隈で、すすんできているそうです。しかし、現状はメーカーごとの対応だとのこと。

川奈さん:ですから、一個人としては、最低でも、「真似をしないでください」といった但し書きぐらいは、どのAVにも付けたほうがいいと思っています。

AVメーカーによっては、内容にもよるのかもしれませんが、何らかの但し書きを付けているそうです。

が、現時点ではIPPAは加盟メーカーに対して、そうした但し書きを義務化していません。

AVは出演している女性を含めて一種のプロの集団によって創作された商品であり、簡単そうに見える表現の裏には、日常化した性感染症対策や安全策が標準的に取られているということは、広く社会に知られた方がいいと思うのですが……。

但し書きは、リアリティを求める購買者のニーズには逆行する可能性が高く、売り上げを第一に考えるメーカーにとっては邪魔なのかもしれません。

しかし、真似を禁じる但し書きは、模倣による一般人の加害と被害を防止できますし、容易には真似られないものだと作り手が宣言することにより、AVの創作物としての価値を世間に知らしめることにもなるのではないでしょうか。

これは私だけの考えではなく、IPPAとAVANが昨年行なっていた「表現者の権利を守る会合」では、メーカー側の理事からも、私が前述したのと同じような理由に基づいて、但し書きの義務化を推す意見が出されたことがあります。

ですから、未だ検討課題の域ではありますが、第三者委員会の後押しがあれば、実現する見込みはあると思います。

 

川奈さん:AVに限らず、あらゆる創作物・表現物は、人の精神と社会に影響を与えます。

事実、AVで出演者たちがしていたことを真似て、顔射したがったり、SMゴッコをしたがったり、セックス・トイを使いたがったりする男性や女性と出逢ったことが私はあります。

けれども、顔射したせいで、女性が眼球や耳から性感染症に感染した例もあると、性感染症対策専門のクリニックの医師から聞いたことがあります。

 

川奈さん:一般の方が緊縛モノのAVに影響されて女性を縛れば、怪我をさせることもあるでしょう。

 

AVで緊縛を行なう縄師は、先輩縄師に弟子入りして長期間にわたり修行を積んだプロフェッショナルであり、人体に大きなダメージを与えることなく美的に縄で縛ることに熟達しています。

素人が形だけ真似れば、パートナーに深刻な後遺症を伴う傷害を負わせる可能性が低くありません。

 

川奈さん:AVの出演者たちが、1〜3週間に一度という非常に高い頻度で性病検査を受け(現在は多くのメーカーで義務化)、健康管理を徹底していることを、一般の方々はご存知ないと思います。 

 

AVはフィクションだということなど分かりきったことだと思っている人がほとんどでしょう。しかし、本当にそうでしょうか?

相手の女性が痛がっていても「大丈夫。そのうち気持ちよくなるから」とか言う人いませんか?性器が傷つくようなガッシガシな手マンをしたりする人いませんか?

相手の女性と本当に向き合えていますか?「AVではこうだったし、今までの相手も気持ち良さそうにしてたから」って思い込んでやってませんか?今までの相手はあなたを傷つけるのが嫌で言えなかっただけかもしれませんよ?

女性の方も「AVでこう描かれているんだから、これを気持ちよく思えない自分がおかしいんだ」と思ってしまっていませんか?それで、相手に何も言えずにいませんか


AVがフィクションだと本当に理解できている人なんて実際、どれほどいるのでしょうか?

真似を禁じる但し書きについては必須ではないでしょうか。
しかし、それだけでは全くもって不十分です。これらの「出演者はプロであり、AVはフィクションであること、そして出演者は高頻度で性病検査を行っていること」は様々な方法で、今後どんどん周知していくべきです。
学校の性教育で教えることなども検討していくべきではないでしょうか。

 

表現内容やAVが社会に与える影響についての深く、開かれた議論

適正AVという概念が広がり、それ以外のものが違法性が問われるような状況になっていったとして、適正AV業界内が時流にマッチした状態で健全であり続けるためには一般に開かれた深い議論がされ続けなければいけません。

この点について、川奈さんは以下のようにおっしゃっていました。

川奈さん:一方、AVが社会に与える影響については、AV業界の中では広く・深く議論されたことはないかもしれず、今後の課題であると私は思います。

個人的に、AVAN代表としてではなく、1人の女性としての私自身は、ポルノが存在する国と存在しない国の性犯罪の発生率などの統計を根拠にして、「AVがあるおかげで犯罪が抑制されているのだ」とAV業界人が主張することは、業界人として好ましくない態度であり、控えた方がいいと思っています。

 

例えば、今回の事の発端である真空パックAVや痴漢、レイプものなどについて"そのようなものを規制することで、その性癖の持ち主の欲求のハケ口がなくなりかえって危険だ。"というような話も聞きます。
たしかに、もしかしたらそうかもしれない。

でももしかしたら、AVでそのような性癖を解消する以外に他の解決方法があるかもしれないし、そもそもその説自体も確かなものではありません。
また、それらの作品の公開方法などにも改善の余地はまだまだあるのではないでしょうか。

このような点については、深く研究や議論がすすめられていくべきではないでしょうか。

 

販売期間を発売から5年に限る

また現在、適正AV業界では作品の販売期間を5年に限るという方針が検討されているそうです

川奈さん:また、現在は適正に制作しているメーカーでも、過去の作品となると、倫理審査基準も現在よりゆるく、第三者委員会による提言も受けていないため、今のモラルにマッチしていないケースがあります。

倫理面に問題がある古い作品の中には、今でも販売が継続されて市場に出回っているものもあり、それらがAV業界の改革を見えなくしているということは言えると思います。

現在、AV業界ではIPPAを中心に販売期間を発売から約5年に限るとする方針が検討され、実施が待たれているところです。

古い作品が市場から消えることは業界の改善状況を可視化するだけでなく、現在は一般人として生活している元AV女優たちの大多数の願いでもあると思い、早期の実現を目指す動きにAVANも協力したいと考えています。

 
元AV女優の方々を守るためにも、また時流にマッチした作品だけが市場にあるという状態をキープするためにも必要な対策なのではないでしょうか。

「売れなくなるから表現規制は慎重に」はおかしい

また、AVの表現についての話題の中で川奈さんからこのようなお話も出ました。

川奈さん:一個人としては、私はAVの表現内容が過激な場合や倫理的に問題があれば但し書きを必ずつけるべきだと思うし、表現内容の倫理審査は今よりさらに厳しくなっても構わないと考えていて、業界内の会合の席では再三そのように主張してきました。

しかし、表現規制には慎重ですよね、AV業界全体が。

慎重になる理由は、先にも述べましたが、いわゆるネットの表現の自由原理主義的な意見とは違っていて、ようするに、「売れなくなるから」という、商売人の防衛本能によるもののようです。

IPPAの理事会が業界の大きな動向を決定していると言ってもいいと思うのですが、そこでは何事につけ「売れなくなったらどうする?」という声が繰り返し出されている次第です。

なぜかというと、IPPAの各理事はメーカーの役員や代表なので、自社の売り上げを立てる義務を負っているからです。

売れなくなりそうなことに及び腰になるのは、各社の社員や関連業者に対する責任を感じているためなのです――この関連業者にはプロダクションも、女優をはじめとするAVの出演者も含まれます。


私はこれについては適正AV業界は姿勢を改めるべきなのではないかと感じました。

この姿勢は日本のお笑いが、おもしろいからと(おもしろくないんだけどね)差別的な発言をやめない姿勢に似ているなぁと感じました。

非営利団体じゃないんだから、企業が売り上げを追求するのは当たり前のことです。しかし、AVには大きな影響力があります。「性」という人間にとって避けられない部分を扱っているのです。そのことをぜひ、そのプロフェッショナル精神でもって改めて業界内できちんと考え直していただきたいと思います。 

AVのみ規制することの問題点&法規制の危険性

しかし、痴漢やレイプを描くことなどをAVに限って規制することには問題があること、そしてそれを法律で禁止することには危険な面もあることもお話いただきました。

川奈さん:しかし演技・演出による「性犯罪の設定」をAVにおいてのみ禁止することには、AVだけではなく表現活動を行う幅広いジャンルの創作者と創作物の支持者が反対しているようです。

反対する理由は……

・現在ではメディアミックスが盛んに行われており、同じ作品のAVバージョンと映画バージョン、或いはVシネマバージョンなどが存在する例などもある。AVと映画・AVとVシネマ・AVとゲームなどにグラデーションの部分が存在し、切り分けはAV(というジャンルと関係者)に強いスティグマを負わせるのみならず、そもそも完全に出来るものではない。

・創作物の表現の自由はできるだけ守られるべきだとする考えに則ると、見たくない人に対してはゾーニングで対処すればよく、表現内容がどうであれ、現実に新たな被害者を積極的に生んではいない(出演者の安全が確保され、見たい人だけが見るように工夫されている)創作物を禁止する理由になるとまでは言えない。

・残虐表現や性暴力表現は、文学や映画、マンガ、現代美術にも存在し、「現実に被害者がいる犯罪などを模しているから(或いは、想起させるから)」との理由によるAVの表現内容規制は、容易にAV以外の他のジャンルに飛び火し、法規制が行われれば為政者による言論統制の引き金になる。

……こんなところでしょうか。

 

 

川奈さん:法規制は、恐ろしいものです。

とくに、はてしないグラデーションや解釈論が存在する「性表現」「性労働」を法規制すれば、後々、国の為政者がいかようにも法を捻じ曲げて解釈し、運用できてしまいますから、とても怖いことだと思います。

法規制ではなく、民間の自主規制によって、時流にあわせて表現を調整していくのが望ましい。私はそう思います。


私は痴漢やレイプなどの性暴力を安易にコンテンツとして描くことには反対です。なので、川奈さんとお話するまではAVで痴漢やレイプを描くことを法規制するべきだと考えていました。

ですが、たしかに「痴漢モノ・レイプモノは禁止」としたところでどこからどこまでをレイプを描いたものとするのかとか、そこらへんの定義はとても難しいものだし、その解釈を捻じ曲げてイタチごっこになってしまう可能性もある。
さらに、それをAVにだけ禁止してしまうのはAV関係者にスティグマを負わせてしまうことになる。

なので、安易に法規制はするべきではなく内部の自浄作用を高めていく方向にもっていくほうが効果も出やすく安全なのかもしれません。

ただやはり、痴漢モノ・レイプモノなどの性暴力をメインコンテンツとした作品については反対です。この点については、先に述べたように研究や議論を重ね改善を求めていきたいと考えます。
 

あとがき

さて、前後編にわたってお送りしてきましたがいかがでしたでしょうか?

今回、私がお伝えしたのはAV業界のほんの一面に過ぎないかもしれません。もっと議論や問題の解明が必要な点があるのかもしれません。

しかし、今後AV業界がさらに議論を重ね、より改善をしていくため、また業界内で働く人たちの安全のためにもAV業界自体をできるだけ表に表に出していくことはとても重要です。

AV業界、また業界内で働く人たちを決して社会から排除せず、また、娯楽的コンテンツという側面からだけではなく、AV業界にある社会問題的な部分にもきちんとスポットをあてていくべきではないでしょうか。

「適正AV」の概念はその大きな一歩かもしれません。
きちんとAV作品をつくっている人たちに関しては、きちんと守られるべきだし、その上でAV業界をどんどんよいものにしていってほしいと思います。そして、それ以外の悪質なものに関してはどんどん淘汰されていけばいいと思います。

最後に、今回本当に快く、ご丁寧にご対応くださった川奈まり子さん、そしてAVANの関係者のみなさまには心より感謝申し上げます。

本当にありがとうございました。


個人的には、フェミニストとAV関係者で一緒に何かイベントとかしたいなー!とか考えていますw

「女の性欲解放キャンペーン」とかしたいなw楽しそうw

それでは、またね〜